名古屋地方裁判所 昭和60年(行ウ)9号 判決 1988年12月27日
愛知県岡崎市大平町字西上野八〇番地
原告
大山寛治こと
李重學
右訴訟代理人弁護士
杉山忠三
愛知県岡崎市明大寺本町一丁目四六番地
被告
岡崎税務署長
小柳津一成
右被告指定代理人
関島勲
同
山本英樹
同
仲田勇
同
石川誠治
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五九年二月二七日付でした原告の昭和五四年分所得税の更正のうち、分離短期譲渡所得金六二九万六八三五円、納付すべき税額金二四一万八〇〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定(ただし、いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 確定申告
原告は、昭和五四年分(以下「係争年分」という。)の所得税について、昭和五五年三月七日に、別表「確定申告」欄記載の額による確定申告書を提出した。
2 更正及び賦課決定
被告は、別表「更正・賦課決定」欄記載のとおり、更正及び重加算税賦課決定(以下「原処分」という。)をし、これを昭和五九年二月二七日付で原告に通知した。
3 異議申立て及び異議決定
原告は、同月二九日、被告に対し、原告処分を不服として、原告の確定申告額を超える部分の取消しを求めて異議申立てをしたところ、被告は、原告の申立ての一部を理由あるものとして、別表「異議決定」欄記載のとおり原処分の一部を取り消す旨の異議決定をし(以下、異議決定により一部取り消された後の更正を「本件更正処分」、同じく一部取り消された後の重加算税賦課決定を「本件賦課決定」、本件更正処分と賦課決定を併せて「本件処分」という。)、同年五月二六日付で原告に通知した。
4 審査請求及び裁決
原告は、本件処分を不服として、同年六月一八日、国税不服審判所長に対してその取消しを求める審査請求をしたが、同所長は、昭和六〇年五月一六日、原告の請求を棄却する旨の裁決をし、同月二一日付で原告にその旨通知した。
5 本件処分の違法
しかしながら、本件更正処分は原告の係争年分の分離短期譲渡所得金額を過大に認定した違法があり、同処分に付随してなされた本件賦課決定もまた違法である。
6 よつて、原告は、被告に対し、本件処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし4の各事実はいずれも認める。
2 同5及び6は争う。
三 被告の主張
1 本件処分の根拠
原告の係争年分の総所得金額及び分離短期譲渡所得金額の算出根拠は、以下のとおりである。
一 総所得金額 金一〇八万円
内訳は、原告の申告に係る不動産所得金額金一〇八万円である。
二 分離短期譲渡所得金額
金二三七五万六八三五円
以下の(1)総収入金額から、(2)取得費及び(3)譲渡に要した費用を控除した金額である。
(1) 総収入金額 金三三〇〇万円
右の総収入金額は、原告が、昭和五四年八月二一日、自己所有の別紙物件目録記載一、二の各土地(以下「本件土地」という。)を訴外松原美治及び同松原file_2.jpgfile_3.jpg子(以下「松原夫婦」という。)並びに同清水米一(以下「清水」という。)にそれぞれ売り渡したことにより得た代金額であるが、その経緯は以下のとおりである。
<1> 原告は、昭和五三年暮れころ、本件土地の売買につき、訴外豊栄地所(以下「豊栄地所」という。)の名で不動産業を営む訴外矢頭一弓及び同鈴木登(以下、それぞれ「矢頭」、「鈴木」という。)に仲介を依頼した。
<2> これを受けた矢頭らは、訴外平松重一(「平松」という。)に買主を探すよう依頼した。そこで、平松は、昭和五四年初夏ころ、以前から面識のあつた清水に坪当たり金三万五〇〇〇円で本件土地の売買を斡旋した。清水は、平松の案内で本件土地の現況を見て、その将来性から平松の言い値で買つてもよいと考えたが、自分一人では買えないため、義兄の訴外松原貞次(以下「松原」という。)に共同で買うように働きかけたところ、松原も娘及び娘婿である松原夫婦の共有名義で本件土地を買う意向を示したため、清水において、平松に対し、同年八月ころ、口頭で自己が別紙物件目録記載二の土地(以下「ロ土地」という。)を、松原が別紙物件目録記載一の土地(以下「イ土地」という。)を平松の言い値で買うつもりである旨申し入れた結果、本件土地の売買契約が成立した。
<3> 原告は、同年八月二一日、自宅において、豊栄地所から本件土地の手附金として金三〇〇万円を受領し、同日、これを訴外岡崎信用金庫(以下「訴外金庫」という。)本店(以下「本店」という。)の自己の手形貸付金の弁済に充てた。
<4> 清水及び松原は、豊栄地所に対し、同月二五日、訴外金庫大池町支店(以下「大池町支店」という。)において、本件土地売買契約の手附金として各自金一〇〇万円を支払つた。
<5> 原告は、同月二七日、本件土地売買代金の残代金を受領するべく、本店二階応接室において、矢頭ら及び司法書士と会い、残代金合計金三〇〇〇万円を受領し、このうち金七〇〇万円を自己の手形貸付債務の弁済に充て、金四五五万円を自己名義の定期預金口座に入金し、金一七四六万円を北村一郎名義の自己の仮名普通預金口座(以下「北村口座」という。)に入金した。
<6> 清水及び松原は、豊栄地所に対し、同年九月五日大池町支店において、清水においてはイ土地の売買代金である金一〇四三万円から手附金を控除した金九四三万円を、松原においてはロ土地の売買代金である金二七九六万五〇〇〇円から手附金を控除した金二六九六万五〇〇〇円を支払つた。
(2) 取得費 金八二四万〇三六五円
内訳は以下のとおりであつて、いずれも原告の申告に係るものである。
<1> 本件土地に係る取得価額
金七八三万〇九二五円
原告は、昭和四四年三月二四日、訴外角谷豊春から本件土地を代金七八三万〇九二五円で取得した。
<2> 本件土地に係る造成費等
金四〇万九四四〇円
原告は、昭和四五年八月五日、本件土地の造成を行い、その費用として訴外宮下保に金二〇万円を支払い、更に昭和五一年二月二〇日に測量を行い、測量費金二〇万九四四〇円を支払つた。
(3) 譲渡に要した費用
金一〇〇万二八〇〇円
<1> 仲介手数料 金九九万円
本件土地の総収入金額は金三三〇〇万円であるところ、これに一般的な仲介手数料の料率である三パーセントを乗じて算出した金九九万円が仲介手数料の額となる。
<2> 登記諸費用 金一万二八〇〇円
2 本件更正処分の適法性
被告は、前記1の根拠によつて認定した原告の総所得金額及び分離短期譲渡所得金額を基礎にして、別表「異議決定」欄に記載のとおり、原告の納めるべき税額を算定した上、本件更正処分をなしたものであるから、本件更正処分は適法である。
3 本件賦課決定の適法性
原告は、係争年分の所得税の確定申告に際し、事実と異なる売買契約書をもつて、分離短期譲渡所得金額及び税額を過少に申告したものであつて、これは国税通則法六八条一項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)に該当するのであるから、被告において、原告に対し、別表「異議決定」欄の「重加算税額」欄に記載のとおり重加算税を賦課した本件賦課決定は適法である。
四 被告の主張に対する原告の認否
1 被告の主張1について
一 一の事実は認める。
二 二の事実のうち
(1) 冒頭の事実は、原告の分離短期譲渡所得につき金六二九万六八三五円の限度で認め、その余の事実を否認する。
(2) (1)の事実について
<1> 冒頭の事実のうち、総収入金額を金一五〇〇万円の限度で認め、その余を否認する。
<2> <1>の事実は認める。
<3> <2>の事実は知らない。
<4> <3>の事実は認める。
<5> <4>の事実は知らない。
<6> <5>の事実のうち、原告が本件土地の売買代金の残代金として矢頭から金三〇〇〇万円を受領したこと、北村口座に入金した現金が本件土地売買代金の一部であることは否認し、その余の事実は認める。
<7> <6>の事実は知らない。
(3) (2)の事実は認める。
(4) (3)の事実のうち、<1>は本件土地の売買代金である金一五〇〇万円に三パーセントを乗じた金四五万円の限度で認め、その余を否認し、<2>は認める。
2 被告の主張2及び3はいずれも争う。
五 原告の反論
1 本件土地の客観的価値からみた相当代金額
被告は、本件土地売買の代金額が坪当たり金三万五〇〇〇円として算出された旨主張するが、本件土地はいずれも保安林に指定されており、同土地内には砂防用の堰堤も設置されており、当分の間は利用できる見込みのない土地であつて、地価は甚だ低額であり、昭和五九年度の固定資産評価額は僅かに一平方メートル当たり金一四円に過ぎないのである。これからしても、被告主張の本件土地の売買代金額は高額に過ぎ、到底あり得ないものである。
2 本件土地売買の経緯
仮に、被告主張のとおり、清水及び松原と矢頭らとの間において、本件土地の売買につき坪当たり金三万五〇〇〇円で算出した金額を代金額とする取引がなされていたとしても、原告が矢頭らから受け取つた売買代金額は金一五〇〇万円であることに変わりはなく、このことは、以下の本件土地売買の経緯からしても明らかである。
一 原告は、昭和五三年暮れあるいは同五四年初めころ、豊栄地所こと矢頭から本件土地の売却の打診を受けたため、買い手があれば売つてもよい旨回答し、その仲介を依頼した。その後、矢頭は、原告に対し、総額金一五〇〇万円で売れる旨報告し、原告がその金額で売つてもよい旨回答すると、同五四年八月二一日、手附金三〇〇万円を持参して原告方を訪れ、買い手が決まつた旨伝えて契約書を差し出したので、原告は、当該契約書の売主欄に記名押印した。
二 他方、清水及び松原に対しては、平松及び訴外林某(以下「林」という。)が本件土地売買の話を持ち込み、清水らは、売主が豊栄地所あるいは鈴木であるとの理解のもとに、平松及び林の案内で現地を検分して買う意思を固め、本件土地売買の契約書を作成した上、同月二五日、大池町支店でそれぞれ手附金を支払つた。なお、このとき支払われた手附金合計金額は、被告の主張によると金二〇〇万円である。
三 原告は、矢頭から、同月二七日、本件土地売買代金の残金一二〇〇万円の支払をする旨の連絡を受けたので、同日午前、原告の指定した支払場所である本店に本件土地の権利証を持つて赴いた。矢頭は、鈴木及び司法書士である訴外岩瀬邦男(以下「岩瀬」という。)と共に本店に来たが、金一〇〇〇万円しか持参していなかつたため、原告は、矢頭に、残金全額の支払を受けない限り登記書類に捺印しない旨伝えた。そこで、矢頭は、本店に普通預金口座を開設し、どこかへ電話をして同口座に金二〇〇万円を振込送金させ、その払い戻しを受けて、持参した金一〇〇〇万円と併せて原告に支払つたため、原告は、岩瀬の作成した買主への所有権移転登記手続書類に捺印して権利証と共に矢頭に交付し、同人に仲介手数料金四五万円を、岩瀬に登記申請手続等の費用金一万二八〇〇円を支払つた後、売買代金を自己の手形貸付金債務の弁済と自己名義の定期預金口座への入金に充てた。
四 原告は、同日、土地売買代金の授受が終了した後、一旦車で本店から約二キロメートル離れた自宅に帰り、かねてから自宅の金庫に保管していた韓国の土地を売つて得た金のうち金一七四六万円を持ち出し、直ちに本店に引き返して、同日午後三時前に再び本店に入り、持参した現金一七四六万円を北村口座に入金した。
五 一方、清水及び松原は、同年九月五日、大池町支店に赴き、平松、鈴木、林及び矢頭に対し、残代金を支払つたが、この金額が仮に被告主張の金三六三九万五〇〇〇円であつたとしても、右金銭授受については、原告は一切関知しておらず、清水及び松原が矢頭らに支払つた金額と原告が矢頭から受け取つた金額との差額は、清水及び松原が矢頭らに残代金を支払つた際、矢頭らが、契約が済んだら東南アジアに遊びに行く旨述べていたことや、矢頭が清水らから売買残代金を受け取つた日(同年九月五日)が、矢頭が原告に売買残代金を支払つた日(同年八月二七日)より後であることから考えても、原告に交付されずに、矢頭らにおいて領得したとみるのが相当である。
3 北村口座へ入金された現金の出所
原告が、同年八月二七日の本件土地売買代金の授受当日、北村口座に入金した現金の出所は、前記のとおり原告が韓国で所有していた土地を売却して得た代金の一部であるが、その経緯は以下のとおりである。
一 原告は、大正一二年(西暦一九二三年)に父が死亡したことに伴い父の遺産をすべて相続し、その相続財産の中に含まれていた土地等を処分した代金等で別の土地等を買つたが、そのうち別紙物件目録記載三の土地(以下「ハ土地」という。)を昭和四九年(西暦一九七四年)九月一日に代金約金八〇〇〇万ウオンで売り、売買と同時に代金額全額の支払を受けたが、買受人側において登記簿上の所有権取得者を決めた後に登記手続をしたいとの希望があつたため、移転登記手続が遅れ、漸く昭和五四年(西暦一九七九年)一二月二二日に登記手続を了した。なお、韓国不動産登記法四〇条二項は、登記申請にあたつては登記原因を証明する書面とは別に市長等の検認を受けた用紙による売買契約書を提出しなければならないと規定しているので、登記手続に際して改めて契約書が作成されたが、その際契約書に記載された売買代金は、我が国の固定資産課税台帳登録価格に相当する価格でよいとする一般の理解に従い、形式的に、ハ土地の右登録価格に相当する価格である金三一〇万ウオンを売買代金額が記載された契約書が作成されたのである。
二 原告は、韓国の土地を売つて得た代金を米ドルに換金して昭和五四年八月までに逐次日本に持ち帰つたが、その処理に困り、岡崎税務署の担当者に相談したところ、架空名義で預金すればよいとの教示を受けたため、その言を信じて、昭和五四年八月二七日、本店に北村口座を開設して入金したが、これが被告の指摘する北村口座に対する金一七四六万円の入金である。
六 原告の反論に対する認否
1 原告の反論1の事実のうち、本件土地が保安林に指定されていることは否認し、その余は争う。
2 同2の事実について
一 一の事実のうち、原告が矢頭に本件土地売買の仲介を依頼したこと、昭和五四年八月一日、矢頭が原告に金三〇〇万円を交付したことは認め、矢頭が原告に本件土地が金一五〇〇万円で売れる旨報告したことは否認し、その余は知らない。
二 二の事実は認める。
三 三の事実のうち、原告が、その主張の登記費用を支払い、また、本件土地売買残代金の一部を自己の手形貸付金債務の弁済及び自己名義の定期預金口座の入金に充てたことは認め、その余の事実は否認する。
四 四の事実は否認する。
五 五の事実のうち、清水及び松原が原告主張の金額を矢頭らに支払つたことは認め、その余は争う。
3 同3の各事実はいずれも否認する。
七 被告の再反論
1 原告は、本件土地の固定資産税の評価額等から考えても、原告は本件土地代金を金一五〇〇万円と考えたのが相当である旨主張するが、固定資産税評価額は、売買等取引の対象とされる場合の土地の実勢価格を表すものでないことは社会通念上明白であつて、原告の右主張は当を得ないものである。なお、被告が、昭和五四年から同五八年までの間に売買された本件土地付近の売買実例について調査したところ、山林については坪当たり金三万五六四〇円ないし金八万四七六〇円であつた上、右売買実例における山林の固定資産評価額は僅かに金一三円ないし金一四円に過ぎないのである。
2 原告は、昭和五四年八月二七日に北村口座へ入金された現金は、原告がその所有のハ土地を売却して得た現金を、日本に持ち帰つて換金した上金庫に保管しておいたものである旨主張するが、原告の売却したハ土地について交わされた契約書に記載された金額は金三一〇万ウオンで、北村口座への入金額に合致しない上、原告が金額不一致の理由としてあげる韓国不動産登記法四〇条二項の規定も、ハ土地の移転登記の際には適用されていなかつたのであるから、原告の右反論は失当である。
やお、原告の反論によれば、原告は税務署職員から仮名口座の開設を教示され、また、右教示後も数か月もの間、多額の現金を自宅に保管した上、あえて本件土地売買代金支払の日と同日に北村口座に入金したことになるが、かような主張はそれ自体社会常識に反し、到底信用できないものである。
八 被告の再反論に対する認否
すべて争う。
第三証拠
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらをここに引用する。
理由
一 課税経過等について
請求原因1ないし4の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 原告の所得の認定について
原告は、本件更正処分が原告の係争年分の所得を過大に認定した違法がある旨主張するので、まず、この点について判断する。
1 当事者間に争いのない所得金額等
係争年分の原告の総所得金額が金一〇八万円であつたこと(被告の主張1の一)、原告が本件土地を売却したことにより生じた原告の分離短期譲渡所得金額の算出に係る金額について、取得費として原告が昭和四四年三月二四日に訴外角谷豊春から取得したときに支払つた金七八三万〇九二五円、昭和四五年八月五日に訴外宮下保に本件土地の造成費用として支払つた金二〇万円、及び昭和五一年二月二〇日に測量費用として支払つた金二〇万九四四〇円の合計金八二四万〇三六五円を要したこと(同1の二の(2))、譲渡費用のうち登記諸費用に金一万二八〇〇円を要したこと(同1の二の(3)の<2>)は、いずれも当事者間に争いがない。
しかして、総収入金額、すなわち、原告が本件土地の売買によつて得た売買代金額については、被告は金三三〇〇万円であると主張する(原告は、右代金額を申告に係る金一五〇〇万円の限度で認めている。)ところ、本件土地の売買契約成立に伴つて支払われた仲介手数料の金額が右代金額に三パーセント(この率は原告主張の率と同じである。)を乗じた金九九万円であることは被告の自認するところである。
2 本件売買によつて得た原告の収入
以上によれば、結局、本件の争点は、原告が本件土地の売買によつて得た金額の多寡ということになるので、以下、この点について判断する。
一 本件土地売買の経緯及び入金状況
本件土地売買の経緯及び入金状況につき、原告が矢頭に本件土地売買の仲介を依頼したこと(被告の主張1の二の(1)の<1>)、原告が矢頭から昭和五四年八月二一日に本件土地売買の手附金として金三〇〇万円を受け取つたこと(同1の二の(1)の<3>)、原告が、矢頭から、同月二七日、本店において、本件土地売買の残代金を受け取り、それを自己の手形貸付金債務の弁済と自己名義の定期預金口座の入金に充てたこと(同1の二の(1)の<5>)、本店には北村口座すなわち北村一郎名義の原告の仮名普通預金口座が存在したこと(同1の二の(1)の<5>)は、いずれも当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない事実及び前項の当事者間に争いのない事実に加え、いずれも成立に争いのない甲第二号証の一、甲第三号証の一、乙第一七及び第一八号証、いずれも原本の存在及び成立につき争いのない乙第二ないし第六号証、乙第七号証の一、二、乙第一四及び第一五号証、証人松原貞次の証言(以下「松原証言」という。)、原告本人尋問の結果(ただし、後記信用しない部分は除く。)及び、これらにより真正に成立したものと認められる甲第一号証の一、原告本人尋問の結果(前同)によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第一号証の二、甲第四号証の二、三、甲第五号証、証人清水米一の証言(以下「清水証言」という。)及びこれによりいずれも真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、三、乙第八号証、松原証言によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第一号証の二、四、五、乙第九号証、証人深見實の証言(以下「深見証言」という。)及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一〇号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、原告本人尋問の結果中、これに反する部分は前掲各証拠に照らしてにわかに信用できず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
(1) 原告は、本件土地を、昭和四四年三月二四日に訴外角谷豊春から金七八三万〇九二五円で競落したが、本件土地の地積の誤謬訂正の依頼等の関係から知り合つた、豊栄地所の屋号で不動産業を営む矢頭に対し、昭和五四年初夏ころ、本件土地売買の仲介を依頼した。
(2) 原告からの仲介依頼を受けた矢頭は、同年初夏ころ、知人の平松に本件土地の買主を探すように依頼し、平松は、そのころ、以前から面識のあつた清水に対し、坪当たり金三万五〇〇〇円の値段で本件土地を買い受ける話を持ち掛けた。
(3) 清水は、平松及び林と共に、同年夏ころ、本件土地を実際に検分したところ、本件土地は砂防地の指定のある山林ではあるが、場所等から将来住宅地として発展する可能性があると思い、坪当たり金三万五〇〇〇円の値段であれば買つてもよいと考えたものの、一人で買うには広すぎるので、実兄の松原にも本件土地売買の話を持ち掛けたところ、松原もその値段なら買つてもよいと判断し、実娘の松原file_4.jpgfile_5.jpg子及び娘婿の松原美治を説得して同人らの了解を得た上、同人らの代理人として、以後清水と共に本件土地売買の話を進めることにした。
(4) 矢頭は、同年八月二一日、原告方を訪れ、原告に対し、本件土地売買の手附金として金三〇〇万円を持参交付したので、原告は、同日、本店に赴き、矢頭から受け取つた金三〇〇万円を自己の手形貸付金債務の弁済に充てた。
(5) 清水及び松原は、同月二五日、大池町支店に赴き、そこで、矢頭、鈴木、平松らに会い、同人らに対し、本件土地売買の手附金として、それぞれ各金一〇〇万円を交付した。
(6) 原告は、同月二七日、本件土地売買の残代金を受領するため、本店二階応接室に赴き、同所で、矢頭、鈴木、岩瀬外一名と会い、同日午後一時過ぎころ、矢頭から本件土地売買の残代金を受け取つたが、矢頭の持参した現金が残代金としては金二〇〇万円不足していることが判明したため、矢頭は、本店為替課長の訴外深見實(以下「深見」という。)の示唆により、急遽本店に自己名義の普通預金口座を開設し、同日午後二時一四分ころ、訴外金庫豊田支店から右口座へ金二〇〇万円の振込送金を受け、これを直ちに払い戻して、原告に交付した。原告は、受け取つた残代金から矢頭に仲介手数料を交付し、岩瀬に登記書類と登記諸費用金一万二八〇〇円を交付し、また、深見に対し、まず、金七〇〇万円を交付して、これを自己の手形貸付金債務の弁済に充ててもらい、次いで、金四五五万円及び金一七四六万円を交付して、金四五五万円を自己名義の定期預金口座への入金に、金一七四六万円を北村口座への入金に、それぞれ充ててもらつた。
(7) 翌同月二八日、イ土地については原告から松原夫婦への、ロ土地については原告から清水への、同月二七日売買を登記原因とする各所有権移転登記手続がなされた。
(8) 清水及び松原は、同年九月五日、本件土地の残代金を支払うべく大池町支店に赴いて、矢頭、平松らに会い、同所で、矢頭に対し、清水において金九四三万円を、松原において金二六九六万五〇〇〇円を、それぞれ支払い、矢頭から本件土地の各登記済権利証を受け取つた。
(9) なお、本件土地の売買契約書は、いずれも昭和五四年八月二一日付で作成されており、イ土地については売主欄には原告の、買主欄の松原美治外一名の各署名押印が、売買代金額欄には金一〇九二万五〇〇〇円の記載が、そぞれあり、ロ土地については売主欄には原告の、買主欄には清水の各署名押印が、売買代金額欄には金四〇七万五〇〇〇円の記載が、それぞれある。
以上の事実が認められる。もつとも、原告は、本件土地の形状や砂防林の指定がなされていることから、被告主張の売買代金額は高額に過ぎ、このことは本件土地の固定資産評価額が極めて低額であることからも明白である旨主張し、これに沿うかのごとき成立に争いのない甲第八号証(不動産鑑定評価書)も存するが、前記のとおり、本件土地は昭和四四年に金七八三万〇九二五円で原告によつて競落されていることに照らせば、それから一〇年も経過した本件売買当時の本件土地の客観的価値が右甲第八号証に記載の金額にとどまらないことは明らかというべきであるし、もともと売買代金額は、当事者の色々な思惑によつて定まるものであるから、本件土地の形状等や固定資産評価額に関する原告主張の点を考慮に入れても、清水らが前記認定の金額を本件土地の代金額としたことは前掲各証拠によつて充分認められるのであつて、原告の右主張は理由がなく、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。
二 本件土地売買の経緯及び入金状況から推認できる事実
前項で認定した事実から、本件土地売買により原告が得た売買代金額を推認するのに、原告が昭和五四年八月二一日に本件土地売買代金の手附金として金三〇〇万円を受け取つたこと、原告が同月二七日に手形貸付金債務の弁済に充てた金七〇〇万円及び同日原告名義の定期預金口座に入金した金四五五万円が本件土地売買の残代金の一部であることは当事者間に争いがないところ、後記のとおり、右各金額に、原告主張の三パーセントの率による仲介手数料金四五万円を加えると、金一五〇〇万円となるので、結局、原告が同日北村口座に入金した金一七四六万円が本件土地売買の残代金の一部であると認定するか否かによつて原告の得た売買代金額が決せられるところ、以下(1)ないし(4)に記載の理由により、北村口座に入金された現金は、本件土地売買によつて得た売買代金の一部と推認すべきである。
(1) 前記一に記載の各証拠及び認定事実によれば、原告は、昭和五四年八月二七日の午後一時過ぎころから、矢頭と売買残代金の授受を始め、同日午後二時一四分過ぎころには不足していた金二〇〇万円の授受も終了したと認められるところ、一方では、同日午後三時以前に、手形貸付金債務の償還のために金七〇〇万円、自己名義の定期預金口座への入金のために金四五五万円、北村口座への入金のために金一七四六万円の合計金二九〇一万円が原告から深見に交付されており、本件土地売買残代金の授受と北村口座等への入金がほぼ同時に行われていることが認められる。
もつとも、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件土地の売買残代金を授受した後、一旦帰宅し、自宅から韓国の土地を売つて得た現金を持つて再び本店に戻つた旨の供述があるが、右供述は次項記載のとおり信用するに足りない。
(2) 次に、原告は、本件土地売買残代金の当日に、合計金二九〇一万円もの現金を深見に交付しているところ、原告は、このうち北村口座に入金した金一七四六万円は、原告が韓国の土地を売つて得た現金を日本に持ち帰り、それを円に換金して自宅に保管していたものである旨主張し(原告の反論2、3)、右主張に沿う原告本人の供述もあるが、原告は、韓国の土地を売つた日について、異議申立時には昭和五四年一一月二日付の売買契約によつて得た売買代金である旨主張し、本訴で主張したような昭和四九年九月二二日のハ土地の売買を主張しなかつた(乙第一七号証)にもかかわらず、本訴では、専ら昭和四九年九月二一日付のハ土地に関する売買契約によつて得た売買代金である旨主張するなど、その主張の経過に変遷が認められる上、右変遷につき原告本人尋問の結果によつても合理的な説明のないこと、原告の存在及び成立に争いのない乙第一六号証の一並びに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一六号証の二によれば、昭和四九年九月二一日付のハ土地の売買契約書には売買代金として金三一〇万ウオンが記載されており、原告主張の金八〇〇〇万ウオンを売買代金として記載された契約書等は証拠として提出されず、他に原告主張の代金額を裏付ける契約書等の存しないこと、原告主張によると、原告は、原告が韓国から持ち帰つた金を仮名の北村口座に入金しようとしたのは、岡崎税務署職員の教示による旨供述するが、税務署職員がかかる脱税にもなるような行為の教示をすることはそれ自体不自然であることなどにも鑑みても、前記原告の主張に沿う原告本人の供述は信用するに足りず、結局、本件証拠上は、原告が当時前記のような多額の現金を得る原因として、本件土地売買代金の授受以外に考えられない。
(3) 更に、前記一に記載の認定事実によれば、本件土地の買主である清水及び松原は、同年九月五日に、本件土地売買の残代金として合計金三六三九万五〇〇〇円を矢頭に支払つていることからも、原告の受け取つた売買残代金の額として被告主張の金額の方が自然である。
もつとも、この点につき、原告は、清水らが矢頭に残代金を交付した日が、原告が矢頭から残代金を受け取つた同年八月二七日よりも後であることから、清水らの支払つた金額は、必ずしも原告の受け取つた金額を推認させるものではなく、かえつて、被告の主張によつても、矢頭において多額の金員を立て替えて原告に支払つたことになるが、矢頭にはこのような大金を立て替える資力はなかつたことなどから、むしろ、原告主張の授受金額と清水らの支払つた金額との差額は矢頭らにおいて領得したものとみるべきである旨主張し(原告の反論2)、右主張に沿う原告本人尋問の結果もあり、矢頭詩人、本件についての不服申立てを審理した国税不服審判所において、原告に交付したのは原告主張の金一二〇〇万円である旨答述したことを窺わせる裁決書の記載もある(乙第一八号証)。
たしかに、前記一に記載の認定事実によれば、矢頭は原告に対し、本件土地売買の手附金や残代金を清水らから受領する以前に交付していることが明らかであるが、原告本人尋問の結果及び前掲乙第一八号証の記載によれば、金融業者の大橋文雄が矢頭と共に本件土地売買に関与したことが認められるから、同人の出捐により矢頭において前記金員を立て替えることは困難なことではないし、また、清水らの支払つた売買代金と被告主張による原告の受け取つた売買代金との間に数百万円の差額が存するところ、原告本人尋問の結果によれば、本件土地売買により大橋が少なからざる金額のリベートを取得したことが認められることにかんがみれば、結局、前記原告本人尋問の結果は信用するに足りず、矢頭らによる立替払などを理由として同人らが差額を領得した旨の原告の前記主張は採用することができない。
(4) なお、本件土地の各売買契約書(甲第一号証の一、二)には、本件土地売買代金の合計金額を原告主張の金額とする旨の記載があるが、右金額が清水らの支払つた金額と合致しない虚偽のものであることは、前記一に記載の認定事実並びに清水及び松原の各証言に照らして明らかであつて、右記載のみから原告の受け取つた売買代金額を推認することはできない。
以上のとおり、前記(1)ないし(4)に記載の理由から、昭和五四年八月二七日に北村口座に入金された金一七四六万円も、原告が同日矢頭から受け取つた本件土地売買残代金の一部であつたと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。
三 原告が本件土地売買によつて得た収入金額
前記一記載の各証拠及び認定事実からすれば、前記二記載の理由により、原告の自認する昭和五四年八月二一日の仲介手数料金三〇〇万円、同月二七日に手形金債務の決裁に充てた金七〇〇万円、自己名義の定期預金口座に入金した金四五五万円の合計金一五〇〇万円のほか、北村口座に入金した金一七四六万円も本件土地代金の一部であつたことになる。
ところで、北村口座への入金分を除く合計金一四五五万円について、これは売買代金の三パーセント仲介手数料を控除した残額であることは当事者間に争いがないので、結局北村口座入金分以外の原告取得分に係る本件土地売買代金額は、次の算所式により金一五〇〇万円となる。
14,550,000÷(1-0,03)=15,000,000
また、北村口座入金分に係る本件土地売買代金額も、入金額は右と同率の仲介手数料を控除した残金と推認するのが相当であるので、同様の計算を行うと、次の算式のとおり、金一八〇〇万円となる。
17,460,000÷(1-0.03)=18,000,000
したがつて、原告の得た本件土地の売買代金額は、右金一五〇〇万円及び金一八〇〇万円の合計金三三〇〇万円と認めるのが相当である。
しかして、原告が支払つた仲介手数料の合計金額は金九九万円となることは被告の自認するところである(原告はこれを金四五万円であつた旨主張し、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証の一にはそれに沿う部分もあるが、前記一、二に記載の各証拠に照らして右各証拠は信用するに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない)。
3 原告の所得の認定
以上により、原告の分離短期譲渡式は、前記認定の総収入金額の金三三〇〇万円から、当事者間に争いのない取得被告合計金八二四万〇三六五円、譲渡に要した費用として当事者間に争いのない登記諸費用金一万二八〇〇円、前記2の三項で認定した仲介手数料金九九万円を各控除した金二三七五万六八三五円となり、総所得金額金一〇八万円は当事者間に争いがないから、結局、本件更正処分には原告の所得を過大に認定した点はなく、適法である。
三 本件賦課決定の適法性について
原告の分離短期譲渡所得金額は前記認定のとおりであるところ、前掲乙第一七号証及び乙第一八号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は架空の北村口座を利用して本件土地売買代金の一部を預金し、もつて譲渡所得金額及び税額を過少に申告したものと認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はないところ、右原告の行為は、昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法六八条一項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、これに基づいて納税申告書を提出していたときに該当するというべきであるので、同項の規定に基づき重加算税を賦課した本件賦課決定は適法である。
四 結論
以上の次第で、原告の本訴各請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 加藤幸雄 裁判官 岩倉広修)
物件目録
一 愛知県豊田市四郷町西山九七番一
山林 二六四一平方メートル
二 右同所九七番二
山林 九七五平方メートル
三 韓国慶尚北途慶山郡南川面申石洞山一五〇番地
林野 二万八一六五平方メートル
別表
昭和五四年分所得税・課税処分経緯表
<省略>